初等幾何初心者による初等幾何のススメ

最近、オンラインの数学コンテストサイトであるOnlineMathContest(OMC)にハマっているのですが、始めたてのころ「幾何」がけっこう鬼門に感じました。
これは、大学入試や大学以降のカリキュラムで初等幾何をガッツリ扱う機会がそんなになく(個人差有)、解き方などにあまり馴染んでいなかったということが一因である気がします。

多分同じことを思っていらっしゃる方も多い気がするので、今回はあえて初等幾何の初心者である自分の目線で、最近ようやく学んできた初等幾何の捌き方を紹介してみたいと思います。
なお、この記事はOMCなどで出される求値形式の問題に特化しています。証明問題についてはまた別の技術があると思う(根本は同じかもしれませんが)ので、ここでは踏み込みません。

目次

  1. そもそもどんな知識が必要か
  2. 幾何の問題の具体的な進め方
  3. 具体的な問題で見てみよう
  4. まとめと全体的な勉強法

1.そもそもどんな知識が必要か

「初等幾何は見たこともない定理を知らないと解けないのではないか」という懸念をよく耳にします。個人的にはこれは間違いとまでは言わない*1までも、「そんなことはない」と思います。

特に、最近のOMCでは以下の【基本知識】(高校知識+ほんのちょっと)があれば充分に解ける問題がほとんどであると思います。

【基本知識】: 相似など小学校以前で習う知識は省いてあります
三平方の定理
・正弦定理、余弦定理
・角の二等分線の定理
メネラウスの定理、チェバの定理
円周角定理
・円周角と中心角の関係
・円に内接する四角形(対角の和が180度、レミーの定理)
・方べきの定理
接弦定理
三角形の五心の性質(詳しくは後述します)

こう見ると意外と少ないのではないでしょうか。中には高校の教科書の端っこにしか載っていなかったり、載っていても使ったことがあまりなくて記憶の片隅に放り出されていたり…などあるかもしれませんが、問題を1,2問解けばどういう定理だったか思い出せるものばかりだと思います。
太字にしたものは特に忘れ去られている傾向が強いと思いますがどれも重宝します。

とはいえ、流石に長年使っていないのでいざ問題を解くと「この定理を使えることに気づかなかった」みたいな事になって苦労する、ということがままあると思います。これに関しては「演習を積んで慣れる」が正解な気がするのですがそれだと記事が終わってしまうので、次の節では幾何の問題で具体的にこれらの基本知識を使ってどうやって解き進めるかを書いてみます。

2.幾何の問題の具体的な進め方

初心者として、幾何の問題に当たった時にどんなことをしているかをできるだけ具体的に書こうと思います。

①角度追跡
幾何は「こことここは同じ角度」「ここは有名角」など角度やその間の関係がわかると大きく進展することが多いです。一番有名な利点はもちろん「相似が見つかること」ですが、他にも二等辺三角形が見つかったり、円周角定理の逆で4点が同一円周上にあることがわかったり…など恩恵は計り知れません。ということで、同じ角度をみつけたらどんどん印をつけたりしています。この同じ角度を見つける時に、円周角定理や内心の性質などを意識すると役立ちます。あとは手詰まりになった時適当な角度を文字でおいてゴリゴリ書いていくと進んだりします。

②長さ追跡
相似やメネラウス・チェバの定理から長さ比を求めたり、方べきの定理やトレミーの定理などを使ったりして関係式を出したり、三平方の定理、正弦定理や余弦定理でゴリゴリ計算したり…など、辺の長さやその関係を解析するのももちろん必要です。最終的に長さを求めさせる問題は非常に多いので、結局これをやらないといけないことは多いです。辺の長さを文字で置いたりしますが、文字の置き方の筋が悪いと計算の難易度が爆発して詰むということが往々にしてあり、悲しいことになりがちです。*2

共円・共線
共円」を見つけるのも(わざわざ項目を独立させるぐらい)大事です。点の集合が共円であるとは、それらがすべて同一円周上に乗ることです。特に4点の共円がよく使われます。
これは①の角度追跡と表裏一体で、円周角定理の逆で見つかったり、対角の和が180度なので円に内接する四角形とわかったり…みたいな感じで見つけていきます。共円がわかると、方べきの定理やトレミーの定理などの長さに関する定理に繋がったりして非常に便利です。
点の集合が同一直線に乗る「共線」も重要です。角度追跡をちゃんとやらなかったり、図が雑だったりすると気づかないがちです。

④五心
三角形の五心(重心、垂心、内心、外心、傍心)が出てくる問題は非常に多く、またこれらの性質は忘れ去られていがちなのでこのあたりで吐き気を催す人が多い印象があります。
ですが、定義と基本的な性質をみるとそんなに複雑でもないことがわかります。具体的には、「高校数学の美しい物語」のこの記事 https://manabitimes.jp/math/628 と、以下に列挙する性質を抑えれば十二分に戦えます。(一部被ってます)

・内心/傍心
 内心は内角の二等分線の交点である。ある頂点から内接円の接点(2個)までの長さは等しい。面積と内接円の半径との関係S=(a+b+c)rをたまに使う
 傍心は外角の二等分線の交点で、ある頂点からひとつの傍接円の接点(2個)までの長さは等しい。

・外心
 垂直二等分線の交点である。二等辺三角形が3個できる

・重心
 頂点と対辺の中点を結ぶ線の交点である。いわゆる「2:1の性質」がある

・垂心
 共円となる4点が3つできる。相似な直角三角形がたくさんできる

オイラー
 重心、外心、垂心は共線である

もちろんこれで性質全部では当然なく(五心は奥が深い)、ここにない五心の面白い性質が問題で出てくることもあるのですが、それはその都度学んでいけばよいと思います。


⑤補助線
補助線をどこかで引かないと中々進展しない問題も多いです。ぶっちゃけ天才補助線を引かないと解けない問題もありますが、補助線の引き方にも一定のコツがあるようです。やっぱり「知ってる構図に帰着させる」気持ちで引いていくのが良いと思います。(一番簡単な例だと小学校の問題で相似を作るために平行線を引いたりします。)あと定石というか頻出の補助線もあって、例えば1:2の角度があったら2の方の角度を2等分したり、倒れている長方形があったら真っ直ぐ線を引いたり、円の中心から接線との接点に線を引いたり…と、この辺は本当に演習を積んで触れて慣れる感じだと思います。
これはあるあるだと思うのですが間違った補助線は結構害になることがあって、線が増えるので未知数が増えたりして手に負えなくなります。なので補助線を引くときは色を分けたりしていつでも消せるようにしています。

三角関数・座標・複素平面
そもそも初等幾何で解かなければならないという縛りはどこにもないので、三角関数でゴリ押せそうとか座標が入りそうとかわかったら時間次第で躊躇なく入れるのも良いと思います。でも初等で考えたいという意地もめっちゃわかります。
複素数平面を入れられたり、複素数平面に関する知識(反転など)を持っておくと有利になることもたまにあります。

3.具体的な問題で見てみよう

①自作問題
OMCっぽい自作問題をつくったので、ここまでに紹介したノリで実際に解いてみます。(よければ考えてみてください)
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まず図を書きます。ちなみに人間は3点を通る円を書くのがクソ下手らしいので円を先に書いた方が綺麗になるらしいです。
今回CO=OJなので、4点A,C,D,Jが共円であることがわかります。しかもCJは直径なのでAが直角であることもわかります。
共円や有名角が出たので、一気に①の角度追跡をやったら嬉しそうです。ADは二等分線なので45度が出てきて、円周角と中心角の関係からDOC=90°も出そうです。これは便利そうなのでDOに補助線を引いておきます。さらに、円周角定理から角DCOが45度であるとわかります。直角二等辺三角形が出てきましたね。(実はこれは上で述べた外心の性質「二等辺三角形が出てくる」からもわかります)
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ここまでの図です。さて、ここからは適当な辺を文字で置いて、三平方の定理や角の二等分線の定理などで③の長さ追跡を頑張ると解けるのですが、もう少し①の角度追跡を粘ってみます。というのも直角三角形が色々出てきたので、相似がまだ見つかるかもしれないからです。角ODKをxとおいて角度を追跡すると
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このようになって、ABCとODKの相似がわかりました!相似がわかる瞬間は気持ちいいですね(相似比が結局わからずボツになることも多いですが)。今回は辺の比が1:√5とわかっているので最後に角の二等分線の性質を使ってBD=√50=5√2がわかり、答えは5√2+√10となります。

まとめと全体的な勉強法

というわけで具体的な話に終始してしまいましたが、そんなに知識を詰め込むという感じでなくとも充分に幾何は楽しめると思います。そして今回紹介したような解き方を実践するためにはやはりOMCの過去問やJMOの予選の過去問などを解きまくるのが良いと思います。個人的にはまず粘って解いて、解答がもっと綺麗だったらそれにも目を通すみたいにやっています。たまに死ぬほど難しい問題が出てきて絶望しますがそれも含めて楽しいです。幾何得意になりましょう!!!(僕がなりたいまず)

*1:確かに例えばOMCでは、根心や等角共役点など高校で出てこないかなり深めの概念を使わないとほぼ解けない問題も「たまに」あります

*2:でも大学入試も「計算が楽になる文字の置き方ゲー」みたいな問題がたくさんあった気がするので、むしろ慣れているかも